
「家賃を上げて、収益を増やしたい」
そう考えるオーナー様へ、結論からお伝えします。家賃は、正しい手順を踏めば値上げできます。
値上げは金額こそ小さくても、毎月・全戸に効き続けます。たとえば全8戸で月2,000円上げられれば、年間19万2,000円の増収です。据え置いたままでは、上がり続けるコスト(固定資産税・保険料・修繕費)に手取りが年々削られていきます。
ただし、家賃はオーナー様が一方的に決められるものではありません。法律上は「入居者様との合意」が原則で、進め方を誤ると退去やトラブルを招き、増収分が吹き飛ぶこともあります。
本記事では、退去やトラブルを招かずに家賃を値上げし、増収を実現する手順を、①根拠を用意する→②適正な幅を決める→③通知する→④合意を得る、の順で解説します。読み終えるころには、「自分の物件は、いつ・いくら・どう上げればよいか」が具体的に見えているはずです。
目次
1.家賃を値上げできる法的根拠
家賃は、法律で認められた正当な理由があれば値上げできます。ただし、オーナー様が一方的に決められるわけではなく、原則は入居者様との合意。合意できないときは、法律で定められた手順(調停・裁判)で決めていきます。まずは、この「値上げできる根拠」と「守るべき原則」を押さえましょう。
1.1.家賃を値上げするためには入居者様との合意が必要
借地借家法第32条により、税負担の増加や近隣相場との乖離などがあれば、オーナー様は家賃の増額を請求できます(賃料増額請求権)。これが、家賃を値上げできる法的な根拠です。
ただし、請求すれば自動的に上がるわけではありません。賃貸借契約で定めた家賃は契約期間中、貸主・借主の双方を拘束するため、変更は原則として入居者様との合意によって成立します。合意できない場合は、調停・裁判で額を決めていくことになります。具体的にどのような事情が根拠になるのかは、4章のStep1で解説します。
1.2.「一定期間は増額しない」特約がある場合の注意点
契約書に「◯年間は家賃を増額しない」といった特約(不増額特約)がある場合、その期間中は原則として増額請求ができません。値上げを検討する前に、まず現在の契約書の内容を確認しましょう。なお、反対に「減額しない」という特約は、入居者様に不利なため原則として無効とされる点も、あわせて知っておくと安心です。
2.家賃を値上げする最適なタイミング
値上げは「いつ切り出すか」で、入居者様の受け止め方が大きく変わります。同じ金額でも、タイミング次第で合意できることもあれば、退去につながることもあります。ここでは、もめにくい時期と、避けたほうがよい時期を整理します。
2.1.契約更新のタイミング
最も一般的で、トラブルになりにくいのが、契約更新のタイミングでの値上げです。更新は、入居者様も契約条件を見直す前提のある節目のため、値上げの相談を切り出しやすく、合意も得やすい傾向があります。更新の案内とあわせて、余裕を持って提案するのが基本です。
2.2.契約期間の途中で値上げする場合の考え方
借地借家法上、増額請求は契約期間の途中でも行うことができます。ただし、入居者様にとっては「約束した期間の途中で条件が変わる」ことになるため、更新時に比べて心理的な抵抗が大きくなりがちです。税負担の増加など、途中で値上げをお願いする明確な理由を、資料とともに丁寧に説明することが欠かせません。
2.3.値上げを避けた方がよいケース
避けた方が無難なのは、入居直後・繁忙期の直前・前回の値上げから間もない時期です。また、退去が出やすい繁忙期(1〜3月)の直前に強気の値上げをすると、他物件への住み替えを促してしまうことがあります。入居者様の入居期間や、周辺の空室状況も見ながら判断しましょう。
弊社の経験でも、繁忙期の直前に通知したケースは、他の時期に比べて退去につながりやすい傾向があります。入居者様にとっては住み替え先の選択肢が最も多い時期にあたるため、「それなら引っ越そう」という判断を後押ししてしまうためです。同じ提案でも、閑散期にあたる6月~8月や、11月~12月に切り出した方が、合意に至りやすくなります。
3.値上げ幅・家賃相場の調べ方
値上げ幅は、高すぎれば退去を招き、低すぎれば増収が物足りなくなります。カギは「近隣相場」を根拠に、退去されない範囲で決めること。ここでは、適正な値上げ幅の目安と相場の具体的な調べ方を解説します。
3.1.適正な値上げ幅の目安
結論から言えば、値上げ幅は「現在の家賃の数パーセント程度(数千円単位)」から、根拠を持って決めるのが基本です。法律上の決まりはありませんが、いきなり大幅に上げると退去につながりやすくなります。大切なのは「なぜこの金額なのか」を、税負担の増加や近隣相場で説明できることです。金額の根拠が明確なほど、入居者様の納得を得やすくなります。
弊社がオーナー様にご提案する際の目安は、現行家賃の3~5%程度(家賃10万円なら3,000~5,000円)です。この範囲であれば、根拠さえ示せれば合意いただけるケースが多く、退去に至ることはまれです。一方、3~5%を超える提案は、相場との差が大きい物件であっても交渉が長引きやすく、結果として値上げそのものを見送ることになりがちです。
3.2.近隣相場の調べ方
近隣相場は、賃貸ポータルサイトで「同じエリア・広さ・築年数」の募集家賃を調べるのが手軽です。より正確に知りたい場合は、管理会社や不動産会社に、周辺の成約事例をもとにした査定を依頼するとよいでしょう。募集家賃だけでなく、実際に成約している家賃を確認することがポイントです。
3.3.「上げすぎ」で退去を招かないためのバランス
値上げによる増収と、退去による空室リスクは、常に表裏一体です。たとえば月2,000円の値上げでも、退去が発生して1〜2ヶ月空室になれば、その年の増収分は簡単に吹き飛びます。長く住んでくださっている優良な入居者様ほど、目先の増額より入居継続を優先した方が、結果的に収支が安定することも少なくありません。
弊社が管理する物件でも、退去が発生した場合、空室期間は平均約2ヶ月。その間の家賃が入らないことに加え、原状回復費と募集の広告費で25万円前後かかります。合わせると約37万円の負担となり、月2,000円の値上げで取り戻すには約15年かかる計算です。この数字をお伝えすると、上げ幅を抑える、あるいは今回は見送るという判断をされるオーナー様も少なくありません。
4.入居者様ともめない家賃値上げの進め方
家賃値上げは、「根拠づくり→通知→説明・交渉→書面化」の順で進めるのが、もめないための基本です。方針が固まったら、次の4ステップで実行しましょう。
Step 1:値上げの根拠資料をそろえる
まずは、値上げの根拠となる資料を用意します。固定資産税の通知書、火災保険料や修繕費の増加が分かるもの、近隣の家賃相場(募集事例・査定)などです。「上げたいから上げる」ではなく、「これだけコストが上がり、相場ともこれだけ差がある」と示せる状態にしておくことが、交渉の土台になります。
そのうえで、どの理由を軸に値上げをお願いするのかを整理しましょう。借地借家法第32条は、次のいずれかにあてはまり、現在の家賃が「不相当」になったときに増額を請求できるとしています。裏を返せば、この3つを資料で具体的に示せたときほど、入居者様の合意をもらいやすくなります。
① 固定資産税など税負担の増加
土地・建物にかかる固定資産税や都市計画税などの負担が増えたケースです。税額の通知書など、負担増を示す資料が根拠になります。数字で示せるため、入居者様にも理解してもらいやすい理由です。
② 土地・建物価格や物価など経済事情の変動
地価や建築費、物価などの経済情勢が上昇したケースです。近年の建築資材・人件費の高騰や物価上昇は、この理由に関係します。入居者様自身も物価上昇を実感しているため、納得を得やすい場面が増えています。
③ 近隣の類似物件と比べて家賃が低い(近傍同種の相場)
周辺にある同じような立地・築年数・広さの物件と比べて、現在の家賃が明らかに低いケースです。近隣の募集家賃や成約事例をそのまま資料として示せるため、3つのなかでも最も分かりやすく、合意をもらいやすい根拠になります。
この3つのうち、弊社の経験で最も合意を得やすいのは③の近隣相場です。実際に募集されている類似物件の家賃を並べて示せるため、入居者様にも「確かに安い」と納得いただきやすいためです。逆に、②の経済事情だけを理由にすると「なぜうちだけ上がるのか」という反発を招きやすいため、①②③を組み合わせて示すことをおすすめしています。
Step 2:値上げ通知書を作成・送付する
次に、値上げの通知書を作成します。記載するのは、現在の家賃と改定後の家賃、値上げの理由、適用開始日(更新日など)です。法律上の決まった時期はありませんが、実務では適用の2〜3ヶ月前、更新時であれば3〜6ヶ月前に案内するのが丁寧です。口頭やメールだけでなく書面で通知し、後々のためにやり取りの記録を残しておきます。将来的に交渉が長引く可能性を見据える場合は、内容証明郵便を使うと「いつ・どんな内容を伝えたか」の証拠が残ります。
Step 3:入居者様へ丁寧に説明・交渉する
通知書を送るだけでなく、なぜ値上げをお願いするのかを丁寧に説明することが、合意への近道です。税負担や維持費の増加、相場との差などを、資料を示しながら伝えます。入居者様から反応があった場合は、頭ごなしに押し通すのではなく、適用時期を遅らせる、上げ幅を調整する、設備の更新をあわせて行うなど、双方が納得できる落としどころを探ります。
実際、弊社が交渉に入る場合も、初回の提示どおりに決まることはむしろ少数です。適用時期を後ろ倒しする、上げ幅を圧縮する、設備の更新をセットにするといった調整を経て合意に至るケースが大半ですので、はじめから調整の余地を織り込んで提示額を決めておくと、交渉がスムーズに進みます。
Step 4:合意書(覚書)を取り交わす
値上げについて合意できたら、必ず書面(覚書・合意書)に残します。改定後の家賃、適用開始日、双方の署名を記載しておけば、「言った・言わない」のトラブルを防げます。口約束のまま進めると、後になって支払いをめぐって争いになることがあるため、合意内容の書面化は欠かせません。
5.家賃値上げに関するQ&A
ここでは、値上げを進めるうえでつまずきやすい疑問を、Q&A形式でまとめて解消します。拒否・退去・通知時期といった不安を先に解いておけば、迷わず進められます。
Q1.入居者様に値上げを拒否されたら、どうすればよいですか?
まずは話し合いです。いきなり法的手段に進むのは得策ではありません。「今回は据え置くが次回更新で見直す」「一度に上げず段階的に上げる」「上げ幅を抑える代わりに長期入居を前提にする」など、双方が折り合える条件を探ります。優良な入居者様であれば、関係を壊さないことを優先する判断も十分に合理的です。
話し合いでも合意できない場合、いきなり裁判を起こすことはできません。賃料の増減をめぐる争いは、まず簡易裁判所に民事調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。調停では、調停委員が間に入り、双方の主張や資料をもとに落としどころを探ります。裁判より費用・時間の負担が軽く、話し合いの延長として解決できることも多いのが特徴です。
調停でも合意に至らなかった場合は、賃料増額請求訴訟に進みます。裁判では、不動産鑑定などをもとに適正な家賃が判断されます。争っている間、入居者様は「相当と認める額(多くは従来の家賃)」を支払えば足りるとされ、裁判で増額が認められれば、その差額に年1割の利息を付けて支払われます。ただし、訴訟は費用・時間・労力の負担が大きいため、あくまで最終手段と考え、まずは合意による解決を目指すのが現実的です。
なお、多くは話し合いの段階で、今回は据え置いて次回更新で見直す、上げ幅を分けて段階的に上げるといった形で着地しています。法的手段は「使える」と知っておくだけで十分で、実務上のゴールはあくまで合意です。
Q2.値上げを拒否されたことを理由に、退去してもらうことはできますか?
基本的にできません。契約の更新拒絶や解約には、借地借家法上の別の「正当事由」が必要で、家賃の値上げ(32条)とは別の問題です。値上げ交渉と立ち退きを混同して強引に進めると、かえってトラブルを大きくしてしまうため、切り分けて考えることが大切です。
Q3.入居者様が値上げに応じないまま契約更新日を過ぎたらどうなりますか?
契約はこれまでの条件のまま継続し、家賃が自動的に上がることはありません。争いが続いている間、入居者様は「相当と認める額(多くは従来の家賃)」を支払えばよいとされ、オーナー様がその受け取りを拒むと、入居者様は法務局に供託することができます。最終的に調停・裁判で増額が認められれば、差額に年1割の利息を付けて精算されます。
Q4.値上げの通知はいつまでに出せばよいですか?
法律で定められた期限はありませんが、実務では適用の2〜3ヶ月前、更新時であれば3〜6ヶ月前が目安です。入居者様が住み替えを含めて検討できるだけの余裕を持って伝えることが、トラブル回避につながります。
Q5.値上げを口約束だけで済ませても大丈夫ですか?
おすすめできません。金額や適用日をめぐって、後から「言った・言わない」の争いになることがあります。合意できたら、必ず覚書や合意書などの書面に残しておきましょう。
Q6.値上げで退去されてしまったら、かえって損になりませんか?
その可能性は十分にあります。月2,000円の値上げでも、退去が発生して1〜2ヶ月空室になれば増収分は相殺され、さらに原状回復費や募集の広告費もかかります。値上げの判断は、「増える収入」と「失う可能性のあるもの」を天秤にかけて行うことが大切です。長期入居の優良な入居者様に対しては、上げ幅を抑える、段階的に上げるなど、退去リスクを織り込んだ設計をおすすめします。
Q7.家賃を上げるために、リフォーム・リノベーションをするのはありですか?
十分にありです。築年数が経ち、そのままでは値上げが難しい物件でも、リフォームやリノベーションで設備・内装を新しくすれば、家賃を上げられる余地が生まれます。水回りの交換や人気設備の導入など、費用対効果の高い工事を見極めて実施することがポイントです。
なお、既存の入居者様に対しては、退去を待たずに設備の更新(エアコンや給湯器の新調、独立洗面台の設置など)をあわせて提案することで、値上げの合意を得やすくなるケースもあります。「負担をお願いする代わりに、住み心地も良くなる」という形にできれば、交渉は格段に進めやすくなります。
弊社でも、そのままでは値上げが難しい築古物件について、水回りの交換や人気設備の導入とあわせて家賃を見直し、46,000円/月の増額につながった例があります。ただし、工事費を回収できるかどうかは上げられる家賃とのバランス次第ですので、着工前に必ず収支を試算してください。
6.進め方に迷ったら、管理会社に相談するのも選択肢
進め方に迷ったら、抱え込まずに管理会社へ相談するのが安全です。ここまでの手順を読んで、「根拠資料の準備や通知、交渉まで自分でやり切るのは負担が大きい」と感じた方もいるかもしれません。値上げは進め方でつまずくと、そのまま退去やトラブルにつながります。少しでも不安があれば、動き出す前に専門家へ相談しましょう。
6.1.値上げの査定・通知・交渉は管理会社に任せられる
相場の査定から通知書の作成、入居者様との交渉まで、管理会社に任せられます。直接の値上げ交渉は心理的な負担が大きいものですが、第三者である管理会社が間に入ることで、感情的な対立を避けやすく、交渉もスムーズに進みます。
弊社がご相談を受けるケースでも、オーナー様ご自身が交渉された結果、金額の話がこじれて退去にまで発展してしまった、という例は少なくありません。第三者が間に入るだけで、同じ金額でも「相場に基づくお願い」として受け止めていただきやすくなります。値上げに応じていただいたあとも入居者様との関係が悪化しにくいのは、管理会社を挟む実務上の大きな利点です。
6.2.そもそも上がらない原因が「管理」にあることもある
入居率や家賃が伸びない原因そのものが、募集力や管理体制にあるケースもあります。空室が埋まらない、原状回復費が高い、対応が遅いといった状況なら、管理会社の見直しで運営全体が改善し、結果的に家賃を上げられる状態に近づくことがあります。
弊社に管理を切り替えていただいた物件でも、募集条件の見直しや原状回復の進め方を変えたことで、入居率が27%から100%に改善した例があります。家賃を上げられる状態そのものをつくることも、管理会社の役割です。
6.3.値上げ余地が乏しい場合は売却・買い替えも視野に
エリアの需要そのものが弱く、リフォームや管理見直しでも値上げが見込めない場合は、保有し続けることが最善とは限りません。修繕負担が増える築古物件は、思い切って売却し、より収益性の高い物件へ買い替える(資産の組み替え)ことで、手取りを改善できることもあります。値上げが難しいと感じたときこそ、保有継続と売却を並べて検討するタイミングです。
家賃の値上げは、単なる金額の変更ではなく、法的根拠・相場・通知・交渉・入居者様との関係までを踏まえて進めるべき、経営判断のひとつです。
①借地借家法にもとづく正当な理由を用意し、②適正な幅を見極め、③余裕を持って通知し、④丁寧な説明で合意を得る——この順序を守ることが、退去やトラブルを防ぎながら手取りを増やす近道です。そして、値上げが難しい物件については、リフォームや管理会社の見直し、さらには売却・買い替えまで含めて、次の一手を考えることが大切です。
武蔵コーポレーションでは、賃貸管理から家賃の適正化のご提案、物件の売却・買い替えのご相談まで、オーナー様の状況に合わせてサポートしております。「家賃を上げたいが進め方に迷っている」「そもそも今の物件を持ち続けるべきか判断したい」といった場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

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