セットバックとは?セットバック要物件を購入する際の注意点5つ

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土地や住宅の購入を検討しているとき、不動産広告で「セットバック」の文字を見かけたことはありませんか?

セットバックとは、「建物を前面道路から後退(セットバック)して建築すること」を意味する言葉です。セットバックした部分は建物を建築できず、私道となることから「私道負担」と表記されることもあります。

「セットバック要」や「私道負担」と書かれている土地では、建物を建てるときに使用できる敷地面積が少なくなります。すでに建っている建物を購入した場合も、建て替える際には土地境界線を道路から後退させなければなりません。そのため、何も知らずに購入してしまうと、想定していた建物を建築できないなど、「こんなはずではなかった…」という事態に陥りかねません。

一般的にはセットバックが必要な物件は購入を避けた方が無難ですが、メリットがある場合もあります。ただし、いずれにしてもセットバックのデメリットやリスクなどの特徴をしっかり理解しておくことが重要です。

不動産は概して金額が大きい買い物です。自宅の購入を考えている方も、不動産投資をしたい方も、取り返しのつかない失敗を避けるために、セットバックについてきちんと知識を身に付けましょう。

本記事では、
・セットバックとは何か
・セットバックが必要な物件を買うときに注意すべき点
を詳しく解説します。


1.セットバックとは

セットバックとは、「後退」という意味です。「セットバック要」の土地では、建物を建てる際に土地と道路の境界線を一定のルールに従ってセットバック(後退)させる必要があります。

セットバックをする目的として、以下の2パターンがあります。

1)前面道路の道幅を広げるため

2)斜線制限(※)を緩和するため
※斜線制限とは、道路や隣地の採光や通風を確保して良好な環境を保つために建築物の高さを制限するもの。道路境界線や隣地境界線をセットバックすることで、高さ制限を緩和できる。

1)の場合、建物を建築する際にセットバックを拒否することはできません。また、セットバックによって建物を建てられる敷地面積が縮小するため、購入前には注意が必要です。
一方、2)の場合、セットバックはあくまで斜線制限を緩和させるためのものであり、斜線制限の範囲内の高さで建物を建築するのであれば、セットバックの必要はありません。また、セットバックによる制限緩和のルールも非常に複雑です。

以上のことから本記事では、より重要度の高い「前面道路の幅を広げるためのセットバック」について重点的に解説します。

セットバックが適用されるのは、その土地が面している道路の幅が4m未満の場合です。この場合、道路境界線をセットバックさせることで、前面道路の幅を4m以上確保する必要があります。

1.1. セットバックが必要な理由

前面道路が道幅4m未満の場合、セットバックによって道幅を4m以上にする必要があります。では、なぜセットバックをする必要があるのでしょうか。それは、主に防災上の理由によります。

実は、建築基準法では「接道義務」というものが定められています。接道義務とは「建物を建てる場合、原則としてその土地が幅員4m以上の道路に、2m以上接していなければならない」というルールです。(建築基準法第43条)

接道義務は、火災などの災害時に消防車両の通行や避難経路の確保を円滑にするために、道路の幅を確保する目的で定められています。

しかし、建築基準法が施行された1950年以前からある古い市街地には、規定に満たない4m未満の道路も数多く存在しています。そのような道路に面して建てられている住宅を、違反建築としてすべて取り壊すことはできません。

そこで、建築基準法第42条第2項では、以下の条件を満たす道路を、例外的に建築基準法上の道路として認めています。

①幅が4m未満の道路であること
②建築基準法が施行される以前より、その道路に建物が立ち並んでいたこと
③特定行政庁(知事や市長)の指定を受けたこと

このような道路は、「2項道路」や「みなし道路」と呼ばれています。

セットバックとは、こうした2項道路に面した土地に建物を建てる(あるいは、すでに存在する建物を建て替える)際に、道路幅を4m以上確保するための制限のことです。セットバック部分には建物を建築できず、私道となることから「私道負担」と呼ばれることもあります。(※ただし、厳密には「セットバック」と「私道負担」は同義語ではありません。)

次項では、セットバックの規定を詳しく解説します。

1.2.セットバック幅の計算方法

幅員4m未満の道路に面した土地で建物を建てるには、道路幅を確保するために、土地の境界線をセットバック(後退)させる必要があります。では、後退する幅はどのようにして決まるのでしょうか。

セットバックする幅の計算方法は、接している道路の反対側の土地の状況によって2つのケースに分けられます。

道路の反対側が宅地の場合:道路の中心線から2mずつ境界線をセットバックする

道路を挟んで向かい合う土地が宅地の場合、両側の土地それぞれが道路の中心線から水平線で2mずつセットバックする必要があります。

下図のように幅員3mの道路の場合、両側の土地はそれぞれ道路の境界線線から50cmずつ境界線を下げることで、4mの道幅を確保します。

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道路の反対側が川、崖、線路などの場合:反対側の道路境界線から4m境界線をセットバックする

道路の向かい側が川、崖、線路などの場合は、反対側の境界線を下げることはできません。したがって、川などがある側の道路境界線から水平線で4mの範囲内には、建物を建てることができません。

下図のように幅員3mの道路の反対側が川の場合、境界線を1m下げることで、4mの道幅を確保します。

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2.セットバックが必要な物件を購入する場合の注意点

セットバックは、もちろん拒否することができません。セットバック部分には建物を建築できないため、セットバックが必要な土地や建物を購入する際には、注意が必要です。本章では、セットバック要物件を購入する前に認識しておきたいポイントを解説します。

2.1.前面道路が狭いため、防災性や利便性が低い

セットバックが必要な物件は、防災上の観点でデメリットがあります。そもそもセットバックが必要な理由である接道義務(幅員4m以上の道路に2m以上接する必要がある)は、災害時に救急車両が通行しやすいように定められた規定です。

セットバック要の物件が面しているのは幅員が狭い2項道路のため、防災性は低いといえます。万が一、火災等が発生した時に緊急車両が通れないようなリスクを踏まえると、2項道路に面するセットバック要の中古物件を購入するのは避けることをおすすめします。すぐに建て替える予定で購入するなら問題ありませんが、購入後もセットバックをしないまま放置するのはリスクが高いでしょう。

また、道幅が狭いため、一般の車両も通行しづらくなります。車での通行が難しいと、買い物などの生活に必要な外出にも支障が出る場合があるため、利便性が下がる可能性があります。

2.2.セットバック工事の費用と、誰が負担するかを確認する

セットバック要の土地を購入した場合、セットバックするための費用が掛かる場合があります。具体的には、必要なセットバック距離の測量費用や、道路の舗装費用などです。土地に高低差がある場合や、セットバックが必要な部分に塀がある場合など、状況によって費用も変わってくるため、どのくらいの費用が掛かるかは事前に確認しておきましょう。

費用の目安としては、玄関ポーチ部分を取り壊して道路にする程度であれば数十万円~50万円程度で済むケースが多いようです。ただし、門や塀、建物の一部まで壊さなければならない場合などは最大で500万円程度がかかるケースもあるようです。

また、その工事費用を誰が負担するのかも重要です。セットバック工事では、基本的には所有者自身が費用を負担するケースが多いようです。ただし、自治体によっては助成金制度などを設けているため、購入前に自治体や不動産会社に確認しておきましょう。

2.3.セットバックすると有効敷地面積が小さくなるため、建てられる建物も小さくなる

セットバックをした部分は道路となるため、その部分には建物を建てることができなくなります。したがって、セットバックすると建物を建てられる「有効敷地面積」が狭くなることをしっかりと認識する必要があります。

敷地面積に対してどれだけの大きさの建物を建てられるかは、その土地(エリア)ごとに「建ぺい率」・「容積率」という指標によって制限が定められています。

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セットバックを要する土地の場合、セットバックした部分の面積は、建ぺい率・容積率の計算の際の敷地面積から除外しなければなりません。

例として、幅員2m2項道路(向かい側が宅地)に面している幅10m・奥行き10mの土地を考えます。この土地は面積100㎡ですが、1mのセットバックが必要となるため、セットバック部分の面積は10㎡です。したがって、セットバック後の有効な敷地面積は90㎡となります。

この土地の建ぺい率が60%、容積率が200%の場合、建築できる建物の建築面積は90×60%54㎡以内、延べ床面積は90×200%180㎡以内に制限されます。

本来の土地面積の100㎡ではなくセットバック部分を除く90㎡で計算するため、建築可能な建物の大きさの上限値も低くなります。物件購入前にこのことをきちんと認識しておかないと、「建てたいと思っていた物件が、実は建てられなかった…」という事態になりかねませんので、必ず事前に確認しておきましょう。

2.4.セットバックした部分には門や塀は建築できず、駐車場としての利用もできない

セットバックをした場合、その部分の所有権は失わないものの「道路」としてみなされるため、利用上の制限を受けることになります。セットバック部分には建物を建てられないだけでなく、門や塀を設置したり、物置や駐車スペースとして利用したりすることも認められませんので、注意が必要です。

門や塀、駐車場などを設置したいと考えているなら、セットバック後の有効敷地面積を計算した上で、その範囲内に設置するようにしましょう。

2.5.売却しにくい可能性が高い

セットバック要の物件は、売却しにくい可能性が高くなります。特に、建て替えの際にセットバックが必要な物件を購入する場合は要注意です。そのような物件は、建て替える際に従前の土地面積より小さい面積しか利用できないため使い勝手が悪く、セットバック不要の物件と比べると、敬遠されがちです。

売却できた場合も、価格は相場よりも基本的に安くなります。なぜなら、セットバック部分は有効活用できないため、事実上価値がないとみなされるからです。

セットバック要の土地や建物を購入する際は、通常よりも売却リスクが高いことを認識しなければなりません。自宅として長く居住するつもりであればあまり気にする必要はないかもしれませんが、不動産投資として購入する場合は、出口戦略の観点からおすすめできません。


3.セットバックが必要な物件を購入してもよい場合

セットバックが必要な土地は建築上の制限が厳しくなるため、一般的には避けた方が無難です。ただし、セットバックのデメリットをきちんと理解した上で納得して購入するのであれば、何ら問題はないでしょう。本章では、セットバック要物件を購入してもよいケースについて解説します。

3.1.金額が安い場合

セットバックが必要な物件は、そうでない物件と比べて価格が下がる傾向にあります。それは、セットバック部分についてはほぼ価値がないとみなされるためです。もしも、セットバック後の有効な土地面積で計算しても坪単価が相場より安く、お得であると判断できる場合は、購入してもよいでしょう。

ただし、セットバックに必要な工事費用なども考慮した上で、価格が本当に安いのかを慎重に判断する必要があります。

3.2.物件を新築する、あるいは建て替える予定で、セットバック後の敷地面積でも十分である場合

セットバック物件の最大のデメリットは、物件を建てる際に利用できる土地面積が小さくなるため、本来建てたいと考えていた物件を建てられない点です。逆にいえば、セットバック後の有効な敷地面積を事前に把握し、その敷地面積での建築計画をきちんと立てているのであれば、特に問題はありません。

セットバックが必要な距離(および面積)や定められている建ぺい率・容積率などをしっかり確認してから建築計画を立てていれば、セットバック物件を購入してもよいでしょう。

3.3.すでに建っている建物を購入し、建て替えや売却の予定がない場合

セットバックは、新たに建物を建てる際の制限です。2項道路に面してすでに建っている建物に関しては、そのまま利用し続けることが可能です。セットバックが必要な物件でも、中古物件を購入するのであれば、問題なく住み続けたり、賃貸したりすることができます。

先述のように、セットバック物件の購入には、建て替えや売却時のリスクがあります。しかし、そもそも建て替えや売却を想定していないのであれば、これらのリスクは関係ありません。

ただし、セットバックをしないと、防災上のデメリットなどは残り続ける点には注意が必要です。セットバックをせずに中古物件を利用し続けることは法律的には認められていますが、防災的な観点からいえば、やはりおすすめはできません。自宅として住む場合も賃貸する場合も、自分の家族や賃借人の安全を考えると、できるだけ早くセットバックするべきです。


4.セットバックが必要な物件を購入したらするべきこと

セットバック付きの物件には購入前に注意すべき点が多くありますが、場合によってはメリットもあります。本章では、もしあなたがセットバック要の物件を購入した場合にするべきことを解説します。

4.1.固定資産税の非課税申請をする

セットバックした土地は道路となり、私的に利用することができなくなってしまいます。(所有権はありますが、利用する権利を制限されます。)

そこで、セットバックした部分は、固定資産税や都市計画税が免除されます。ただし、注意が必要なのは、何もしなくても課税が免除されるわけではない点です。固定資産税等の免除を受けるためには、自治体の役所などで非課税の申請手続きをしなければなりません。

具体的な手順については、各自治体の建築指導課などに問い合わせて確認しましょう。

4.2.自治体によっては、セットバック部分の買取や寄付を受け付けている

セットバックした土地は私有地となりますが、自治体によっては買い取ったり、寄付として受け付けていたりする場合があります。寄付として受け付けている場合も、助成金が出るケースもあるようです。

こちらも、各自治体の建築指導課などに確認しましょう。


5.さいごに

セットバックの目的やセットバック距離の計算方法、セットバック物件を購入する場合の注意点について解説しました。

セットバックが必要な物件は、防災上のデメリットや売却の難しさ、建築可能な有効敷地面積が小さくなることなどから、一般の方が購入するのは基本的に避けた方が無難です。
購入する場合も、セットバック面積および建ぺい率・容積率の計算をきちんとした上で、建築計画を立てましょう。

本記事でセットバックについて理解し、自宅や投資用不動産の購入に役立てていただければ幸いです。

また、セットバック以外にも、建築当時は適法だったものの、その後の法令改正や都市計画変更などによって現在の建築基準法に違反してしまっている事例はいくつか存在します。
以下の記事では、既存不適格の種類や購入する上でのリスク、購入してもよいケース・避けるべきケースを解説しているので、あわせてご覧ください。

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