
同じ物件、同じ条件、同じ入居率でも、不動産投資で手にする利益は同じとは限りません。
支出を経費として計上して、利益を圧縮することができれば支払う税金の額が少なくなり、あなたの収益は最大化します。
逆に、どんなにあなたの不動産運営の手法が優秀だったとしても、経費をうまく計上できなければ、ろくに稼働もしていない物件と最終的には収益が同じ、という状況になってしまう可能性があります。
- なぜ税金ばかりが増えるのだろう
- なぜ周りの投資家の方が儲けているのだろう
- なぜ負っているリスクに見合わないリターンしかないのだろう
そう思っている方に伺います。
「経費に関する知識は十分ですか?」
もちろん経費を違法に多く計上することはできません。税務署は常に目を光らせており、過大な経費計上は、とても多くのペナルティを招く危険性があります。
しかし、本来認められる経費を少なく計上し、税金を多く払う事になったとしても、税務署は何も言ってくれません。
税金を最小化するための経費の知識は、投資家として自分を守るために持っておかなければならないという事です。
経費を正しく計上することは、あなたの不動産投資の定期的な仕上げ作業です。経費として認められるもの、認められないものがこの記事を読むことによって網羅的に分かるようになります。
今まで見過ごしていた節税の可能性に気付いていただければと思います。
監修:志田 宏樹
法政大学 工学部卒業。
公認会計士。
前職の優成監査法人では、上場企業のインチャージ、IPO、デュ―・デリジェンス、学校法人監査等、多岐にわたる業務を担当。
現在は武蔵コーポレーション株式会社の財務会計部部長として、財務・会計関係業務の統括を行い、金融機関からの資金調達を行っている。
著書『連結決算の実務Q&A』。
目次
1.不動産投資で認められる経費一覧
不動産投資で認められる経費は、大きく分けて以下の14種類があります。
1.1.ローンの金利
建物部分(設備含)のローンにかかる金利は、経費計上が可能です。
- 建物部分(設備含)の金利→費用計上できる
- ローンの元金部分→費用計上できない
- 土地部分の金利→費用計上できない(例外あり)
と、覚えておきましょう。
購入した不動産の土地、建物のそれぞれの金額は、売買契約書に記載されることが多いので、それを確認します。契約書に設備の金額を分けて記載している場合もあります。その場合は設備部分の金利は経費計上ができます。
返済金額のうち、元金部分と金利部分、それぞれの金額は、ローン会社が返済表を準備していますので、そちらの額を確認します。
1.2.保険料
火災保険や地震保険に加入する際の保険料は、経費となります。
この他にも、孤独死保険などで大家が負担する保険料は、経費計上が可能です。加入している保険会社に連絡することで、明細を取り寄せることができます。
1.3.管理会社への管理委託料
管理委託料は、経費計上が可能です。
自主管理をされている方以外は、家賃集金や入居者募集、入居者対応業務などを管理会社に任せていると思います。管理会社から送られてくる明細を確認して経費を把握します。
管理会社によっては、確定申告にあたって管理を委託している範囲の経費に関する資料をまとめて作成してくれるところもあります。事前に確認しておきましょう。
そういったサービスがない場合でも、確定申告時には一年分の明細があれば対応ができますので、後からそのコピーをもらうことでも対応が可能です。
1.4.管理費
建物の管理費は、経費計上することができます。
不動産を持っている場合、個々のお部屋以外にも、共用部分の清掃や設備の点検・保守などに費用が掛かるのですが、これを管理費と呼んでいます。
管理費は、上記の管理委託料と共に、同じ管理会社に支払っているケースもあります。もしくは分譲タイプのマンションの場合は、部屋(専有部)の管理会社と建物全体の管理会社が異なっているケースもあります。
エレベータの保守、消防点検など、管理会社を通さずに費用を支払うケースもあります。請求書を取っておきましょう。
1.5.仲介手数料、広告宣伝費など入居付けのための費用
賃貸仲介会社に支払う仲介手数料、また管理会社、仲介会社への広告宣伝費も経費として認められます。
仲介手数料は基本的に入居が決まるたびに毎度発生します。広告宣伝費は必ず支払わなければならないわけではありませんが、入居付けを促進する役割があります。
他にも入居付けを図るために家具家電や商品券を入居者にプレゼントするケースもあると思いますが、こちらも交際費として計上が可能です。経費として落とせると認識しておけば入居付け戦略の幅も広がりますので、ぜひ活用しましょう。
逆に、魅力に乏しく入居付けに困りそうな物件を購入する際は、この費用をあらかじめ織り込んで収支予測をたてましょう。
1.6.修繕費
不動産の修繕費は、経費として計上できます。
退去にともなう原状回復のリフォーム費用、日々発生する設備故障にともなう交換費用がこれにあたります。
1.7.固定資産税などの税金
不動産投資を行う上でかかる税金は、経費として計上することが可能です。
- 固定資産税
- 都市計画税
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 印紙税
- 自動車税、重量税(不動産投資に使っている部分のみ)
- 利子税
- 法人事業税
以上のような税金については、支払金額をまとめて把握しておきましょう。
1.8.司法書士や税理士への報酬
以下のような専門家への報酬は、経費として認められます。
- 司法書士への登記依頼
- 税理士への確定申告依頼
- (滞納などに伴う)弁護士への訴訟依頼
1.9.通信費
不動産投資に使用した通信費は、経費として計上できます。
例としては以下のようなものが挙げられます。
- スマホ(携帯電話)やパソコンの購入代金
- 携帯電話会社に支払う料金
- インターネットのプロバイダーに支払う料金
- 不動産投資に使用するソフトやアプリの購入代金
不動産会社や管理会社との連絡手段として、スマホやパソコンはなくてはならないツールです。また新たな不動産購入や勉強のための情報収集にも活用できます。これらは経費として計上が可能です。
ただし、私用など、不動産投資以外にも同じものを使用している場合は、家事按分が必要です。不動産投資に使った部分のみを計算して費用に計上します。
1.10.旅費・交通費
不動産投資の目的に沿う旅費・交通費は経費として計上できます。
不動産購入にあたっての現地訪問、交渉や契約のための不動産会社訪問、決済や面談のための金融機関訪問、所有物件の状況確認といった目的のために使う事が想定されます。
このような場合の
- 公共交通機関の運賃
- 高速道路料金
- 自家用車のガソリン代
- 駐車場代
- ホテルの宿泊費
などが計上できる経費として挙げられます。領収書をもらったら、目的をメモしておくと後で分かりやすくなります。領収書の出ない公共交通機関については、明細の分かる「旅費精算書」を作成しましょう。
1.11.自動車関連費用
- 車両の購入代金
- 車検などのメンテナンス費用
- 自動車税
- 保険料
- レッカー代金
などは幅広く経費として認められます。
自家用車を不動産投資のためにも使用する、という場合は家事按分をして、不動産投資に使用する部分だけが費用計上できます。
なお、レッカー代金は経費として認められますが、スピード違反や駐車違反による反則金、罰金は費用計上できません。
1.12.情報収集・勉強のための費用
- 新聞代
- 書籍代
- セミナー代
- コンサルティング代
は費用計上できます。
しかし「不動産投資をする上で必要な」という前提での話です。関係のないものは認められないので、注意しましょう。また、関係のあるものでも資格取得費用は認められません。
1.13.交際費
不動産会社、管理会社の担当者と打ち合わせのための飲食代は経費として計上できます。一人で行うものや、家族など不動産投資と関係のない人とした食事は認められません。
領収書をもらった際に、誰と何のために行なった食事なのかを記録しておきましょう。
1.14.減価償却費
建物部分の減価償却費は費用として計上できます。
不動産購入費用のうち、建物部分については、減価償却の年数で割った金額を毎年計上することになります。減価償却期間は建物の構造によって決まる法定耐用年数と、築年数を使って計算します。
土地の購入費用は減価償却しないので、注意してください。
2.こんな経費はダメ!確定申告で認められない経費
過去の事例から、確定申告で認められない経費もある程度判明しています。
「経費で落とせる」と勘違いすると収益が大きく悪化しますので、おさえておきましょう。
2.1.スーツ代、コンタクトレンズ代
スーツやコンタクトレンズは経費として計上できません。
不動産会社や管理会社、金融機関の担当者と会う際にのみ使用するとしても経費とは認められません。
ビジネスバッグや腕時計なども、経費として認められなかった事例があります。共通点は、いずれもファッションアイテムとみなされやすいことです。類似のものも注意しましょう。
2.2.ジムなどの会費
基本的にはジムなどの会費は経費計上できません。
例外として個人事業主以外の場合は、家族以外の従業員がいる場合にジムなどの会費を福利厚生費として経費に計上できる場合があります。
しかし家族のみの場合は認められていないのと、個人事業主の場合は福利厚生費が認められていません。
2.3.反則金・罰金
スピード違反や駐車違反などの反則金、罰金は経費として認められません。
前述の通り、自動車関連費用としてレッカー代金は認められています。
2.4.所得税・住民税などの税金
所得税、住民税、法人税は、経費とはみなされません。不動産投資には関係なく発生する税金として課せられます。
2.5.資格取得費用
いずれの資格取得費用も経費とは認められません。
宅建士やマンション経営管理士、賃貸不動産経営管理士など、不動産関連の資格は多くありますが、「個人のスキルアップになるもの」と見なされています。そのため経費とはなりません。
3.判断に迷うケース
同じような支出でも、条件によって経費としての扱いが異なることがあります。
特に工事面での支出に関する判断は避けて通れないので、よく読み込んでください。
3.1.工事の費用
物件の工事をした際に資本的支出にするか修繕費にするかは、判断に迷うケースの代表的なものです。
この2つの違いを説明すると
- 資本的支出→その物件の資産価値を上げる費用で、複数年にわたって減価償却する
- 修繕費→原状回復するための費用で、工事をした年に一括で費用計上ができる
という事になります。
工事にはもちろん出費が伴いますので、できれば修繕費として一括で費用計上して税金を減らしたいところです。しかし工事内容によっては税務署に否認されることもありますので、正確に申告しなければなりません。
「不動産を工事した」という点では同じなので、その工事が資本的支出なのか修繕費なのか判断に迷うケースが多いのが問題です。
例として
【資本的支出】
- モルタル塗装をタイル張りへ変更する
- 壁紙をグレードアップする
- ガス給湯器を、追い炊き付きオートバスなど新型に刷新する
これらは資本的支出であり、国税庁が定める耐用年数をそれぞれ調べて減価償却費を計上します。支出があった年の経費として一括で計上することはできません。
一方で
【修繕費】
- グレード変更のない定期的な外壁塗装
- 同じようなグレードの壁紙への張替え
- ガス給湯器の同じ型や同じ機能のものへの取り換え
これらは修繕費として認められます。価値を高めるとはみなされないものが挙げられ、支出があった年に一括で費用計上します。
それでも判断に迷うケースでは、「物件取得価格(+これまでの資本的支出)のおおむね10%以内なら修繕費」という目安もあるので、活用しましょう。
例えば、300万円かけて各世帯のガス給湯器を交換したとすると
・新型にして、機能も新しく追加され追い炊き付きオートバスとなった
→これは資本的支出となります。耐用年数を調べると15年ですので、15年間かけて毎年20万円ずつ減価償却費として経費計上します。
・同じ型、もしくは同じ機能のものに交換した
→この場合は修繕費とみなされますので、工事を完了した年に300万円一括で経費にできます。
3.2.家族へ支払う給与
いわゆる青色申告者でなければ、家族への給与は経費として認められません。
行なっている不動産投資が事業規模でないと難しい他、また青色申告者となっても青色専従者給与の額を大きくすることは否認リスク、税務調査を呼び込むリスクを高めることとなります。
本当に実態に即した給与の額かどうかを慎重に検討しましょう。通常、不動産賃貸業では月に8~10万円以内と考えておくのが妥当な範囲でしょう。
4.節税に効果的な費用と、効果的でない費用の違い
以上みてきたように、不動産投資には多種類の経費が発生します。
知識を頭に入れてきちんと準備しておけば、申請できる経費の金額を最大化でき、最終的に支払う税金の額を低くする「節税」が可能です。
しかし、どんな経費でも最大化すればよいという事ではありません。効果的に経費を計上し、節税を実現するためには、経費を次の2つのパターンで認識し直す必要があります。
4.1.最大化すべき経費
これは減価償却費です。実際の出費を伴わない経費です。
不動産投資は土地+建物を総体としてとらえることが多いです。しかし契約書においては、土地価格と建物価格を明示して契約することが望ましいです。
総体の価格のうち建物価格の割合を契約書において、売主買主双方合意のもと、常識の範囲内で最大化することで、合計で支払う不動産の取得費用を増やすことなく減価償却費を多く計上することができます。
前述の通り建物の構造や築年で減価償却期間は変わります。それに伴い減価償却費の金額も異なってくるため、経費を最大化したいときは、多くの減価償却費が出る不動産を選ぶことが重要になります。
しかし、減価償却費として経費計上をしていくと、売却時に会計上の利益が出やすくなります。これは、減価償却した分物件の簿価が低くなるためです。
会計上の売却益にかかる所得税は分離課税で、他の所得と損益通算ができません。税率は、短期譲渡(取得後6年以内が目安)での売却で約40%、長期譲渡(取得後6年超が目安)での売却で約20%です。
物件保有時に節税できる所得税の税率と比較をして、減価償却費を最大化すべきかどうか確認してください。特に、年収の低い方(目安は年収1200万円未満の方)は減価償却費を最大化して物件保有時の所得税を節税するメリットが少ないので、注意しましょう。
4.2.最小限に抑えるべき経費
減価償却費以外の経費は、必要最低限に抑えましょう。なぜならこれらの経費は基本的に同じ額の出費が必要になるからです。
「不動産投資のための支出を認められる範囲で全て経費として計上する」ことは税金の額を減らすために重要ですが「経費計上のために出費を多くする」ことはお勧めしません。確定申告で所得税が還付されても、それ以上に出費がかさんでしまっては意味がないからです。
税金や保険料といった必ずかかる経費以外のものは、あくまでも入居付けや賃料収入の最大化、良い不動産を探すための投資費用です。同じ効果を得るために必要でないならば、最小限に抑えることが原則です。
5.不動産投資の経費は購入前から予測が可能
経費の正確な額は、もちろん不動産を購入してからでないと確定しません。
しかし、予測を立てることにより、不動産投資の成功確率は大幅に上がります。
5.1.買ってからでは遅い!?経費を事前に見積っておくことの重要性
これまで見てきたことから分かる通り、不動産投資の経費はいざ不動産を購入し賃貸経営を始めてからは、意識的に増やすことにあまり意味はありません。ここがその他の事業とは異なるところです。
所得税などの節税のために不動産投資を行いたい場合は、不動産投資で会計上の赤字を出して損益通算する必要があります。そのため事前に経費を計算しておかないと、「節税するつもりが逆に利益がでて、税金の額が増えた」という事態になりかねません。
また一方で突発的な設備故障など、実際の出費を伴う経費が発生するリスクもあります。これらを織り込んで経費の予測を行わなければ、予想外の出費がかさむことにより手元の資金がショートしてしまう可能性があります。
思っていたより経費が「かからない」事態も「かかってしまう」事態も避けるために、事前に経費を見積っておくことが、不動産投資で失敗しないためには重要です。
5.2.経費の事前計算のために必要なこと
今回ご紹介した経費のうち、「1.1.ローンの金利」~「1.8.司法書士や税理士への報酬」、「1.14.減価償却費」は不動産会社が投資シミュレーションを作成してくれる場合には、入っていることが多いです。
金利や税金、管理委託料や保険料、専門家への報酬はある程度正確に予測ができるのが特徴です。シミュレーションになければ自分で調べて計算に入れておきます。
入居付けに必要な費用については、前提条件となる空室率や平均入居期間が妥当かどうかによって不動産投資の結果が変わってきます。
空室率はポータルサイトなどで平均値を調べられますし、入居期間は入居者属性の想定(学生向けか、ファミリー向けかなど)である程度予想ができます。
シミュレーションの前提条件に疑問が生じたときなど、場合によっては他の不動産会社にセカンドオピニオンをもらう事も手段となります。
「1.9.通信費」~「1.13.交際費」については、シミュレーションには通常入っていません。個々の金額は小規模ですが、使用する機器や、物件と自宅との距離からある程度予想できますので、こちらも考慮に入れておきましょう。
6.さいごに
経費は、目的が資産形成であれ節税であれ、不動産投資の収益に与える影響が非常に大きな要素です。
落とせる経費、落とせない経費を正しく認識すると共に、経費の全体像を予測して不動産購入に臨むことで、不動産投資の成功確率を上げることが可能です。
経費のことをあまり認識されたことがないという方は、今一度調べ直してみてはいかがでしょうか。
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